僕の話をすると、小学校6年生とき、栃木県の日光まで修学旅行に行きました。天気は二日間とも大雨、土砂降り。
帰りの電車を降りると、駅前には親がみんな自分の子どもたちを待っている。でも僕は、親がいないから誰も待っていない。そういうのには慣れていたんですが、近所に住んでいた同級生の女の子のお母さんが、傘を持ってずっと僕のことを待ってくれていたんです。「これヒロちゃんの傘。ヒロちゃんを待ってたのよ」って。嬉しくて涙が止まりませんでした。自分にも待っていてくれてる人がいたって。
雨に濡れながら帰ろうとあきらめていたので、「風邪ひいて明日学校休んじゃおうかな」なんて本当は思ってたんですけど。ありがたかったですね。
あとは、私が中学生の教員をやっていたときの話です。
とある中学校に、18人の悪ガキグループがいたんですね。
ある日、そのうちのひとりが「先生、オレ昨日から何も食ってないんだよ」と言うから、「これで生協行ってなんか好きなもん買ってこいよ」と、財布ごと渡しました。
ところが、1時間以上たっても帰ってこない。「あのヤロー」と思っていたら、片方はカップラーメン、片方はプリンでいっぱいの、ふたつの大きな袋を手に下げて帰ってきたんです。
「なんだよそれ!」
「18人分と、先生のも買ってきた」
「なんだよこのプリンは」
「プリン安かったんで、先生のお財布見たら買えたんで、みんなのデザート買ってきた」って。
怒ろうかと思ったんですけど、「お前、優しいじゃん」ってほめたんですよ。
そしたらその生徒は「はじめてほめられた」って泣いたんです。
親にも友だちにも、今までほめられたことがなかったんですね。
ついでに言うと、財布の中身は一円玉と五円玉しか残ってなくて、ずいぶんちゃんと計算して買ったんだなって思いました(笑)。