INTERVIEW

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Q from all over the world

「世界中から産地直送Q!」

プロフィール

野本響子

マレーシア 文筆家・編集者

野本響子(ノモトキョウコ)さん

文筆家・編集者。早稲田大学を卒業後、保険会社を経て編集者としてアスキーなどの雑誌に携わる。2012年よりマレーシアに家族で滞在。著書に『マレーシアに来て8年で子どもはどう変わったか』(サウスイーストプレス)、『子どもが教育を選ぶ時代へ』(集英社新書)など。

Vol.4

マレーシア・クアラルンプール

息子はマレーシアで、短期・長期
をふくめ、合計9つの学校を経験

「マレーシアには、私が当時働いていた出版社の仕事の関係で友人家族ができたこともあり、息子が生まれる前から何度か夫とふたりで訪れていたんです。1990年初頭、私の中ではアジアの発展途上国、という印象でしたが、初めて訪れてみると高層ビルが立ち並び、思ったより発展している!と思って。友人家族の3人の子どもたちは伸び伸び育ち、どこへ行っても子どもたちが歓迎されるのを見てきました。さらに、公立に通っている子たちは3ヵ国語を話せるのが普通。『ここだったらいつか子どもを育ててもいいかも』という気持ちが芽生えたのを覚えています」


息子さんが生まれてからも何度か足を運び、2012年に「彼が日本の公立学校になじめなかったのをきっかけに」家族でマレーシアに移住した野本響子さん。最後に背中を押してくれたのは、「ハッピーじゃなければ、転校すればいい」というマレーシア人の友人の一言だったそう。


「日本の公立小学校に入った頃の息子は、 なにがイヤかは言葉にはしなかったけれど毎日泣いていました。マレーシアに移ってからは、『僕はここがずっといい』と言っていましたね」


「マレーシアの“教育の多様性”には本当に驚きました」と野本さん。それはつまり、たくさんの選択肢の中から、子ども自身が望む教育を選べるということだった。実際、息子さんは短期・長期をふくめ、合計9つの学校を経験することになる。


たとえば、息子は小学校から中学校に入ったころ『辞めたい』と言ってきました。理由は『学校の勉強はムダが多すぎる』。そしてその後『学校に戻りたい、哲学を勉強したい』と言って、国際バカロレアの認定校にみずから希望して入学しました。小規模なホームスクールで、プログラミング学習を中心とした自学学習も経験しています。“学び方を自分で選択する”経験をたくさん積めたことは、彼にとって大きな財産になったと思います」


ほかにも、インターナショナル・スクールやボーディング・スクール(全寮制の寄宿学校)、学校や塾を利用せず、豊富なオンライン素材を使って自学するホームスクーラーなど、学びの方法は多種多様だった。息子さんはある日「マレーシアの先生たちは、いつも子どものいいところを探しているよ」と言ったそう。


「先生たちが子どもたちになにかあるごとにハグしてくれたり、机の上にプリンス〇〇、プリンセス〇〇といった感じで机に各自の名前を書いてくれていたり、階段登っただけで『すごいね』とハイタッチしてくれたり。息子から話を聞くたびに、当時は『なんて素敵なの!』と思っていました。でも、ある日知り合いのマレーシア人の校長先生に言われたんです。『それは全部計算されていて、先生たちが意識してやっていることなんだよ』と。学校内のポジティブな雰囲気は偶然ではなく、先生たちが作り出しているものだと知ったときは、目からウロコでした」

本当の学びとは、自分が
知りたいことを知ること

現在野本さんは、アメリカの大学院に入学し、教育学に関するオンライン授業を受講している。そこで触れた数々の海外の論文にも「当時の学校の先生たちが子どもたちに対してしてくれていたことが、当たり前に“やるべきこと”として書かれていた」そう。


「たとえば、息子の小学校の授業で、“数学ウィーク”というのがありました。グループで学校を探検して、『学校にある道具を使って校庭の広さを測ってください』とか、『この卵を二階から割らないように落としてください』といった問題に取り組んでいて、『なんておもしろいことをやるんだろう、変わった学校だなあ』と思いました。でも、それもアメリカ人が書いた論文に書かれていました。その“数学ウィーク”は、数学の授業でありながら、グループ内でディスカッションするので共同作業におけるコミュニケーション力が磨かれるし、クリティカル・シンキング(客観的な視点で論理的に分析し、問題を解決する力)も身につくようになるんですよね。これが今の世界の教育の本流だと思います」


大学院のクラスメイトたちは全員現役の先生で、アメリカ人のほかにはナイジェリア人、中国人、タイ人、フィリピン人など、各自が教育のアップデートを行なうために世界中から集まってきているそう。


「本当の“学び”って、マレーシアでの教育のように“知りたいと思うことを知ること”だと思うんです。そして、それは本来終わりがなくて、とても楽しいことなはず。そういう意味では、受験の問題点は“ゴールがある学び”なことですね。そのゴールまでは努力するけど、それ以降はしなくていいってなりがち。学ぶって、どこかの時点で成功、失敗ではなく、ずっと続いていくものだと思うんです。それを今、大学院に通いながら痛感しています」

取材・文/Questionary編集部

INTERVIEW / 2023.11.17

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野本響子

マレーシア 文筆家・編集者

野本響子(ノモトキョウコ)さん

文筆家・編集者。早稲田大学を卒業後、保険会社を経て編集者としてアスキーなどの雑誌に携わる。2012年よりマレーシアに家族で滞在。著書に『マレーシアに来て8年で子どもはどう変わったか』(サウスイーストプレス)、『子どもが教育を選ぶ時代へ』(集英社新書)など。

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