INTERVIEW

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Q from all over the world

「世界中から産地直送Q!」

プロフィール

巽 朝菜

スウェーデン アウトドアプリスクール保育士

巽 朝菜(たつみ あさな)さん

石川県金沢市生まれ。禅寺で18歳まで過ごす。18歳からアジアやオーストラリアで働きながら滞在し、そこで家もなく学校にも行けないこどもたちに出会ったのが現在の保育士としての原点。2014年にスウェーデンに移住し、2017年から現在のアウトドアプリスクールに就職。2024年からは大学院で野外教育理論を学ぶ。

Vol.6

スウェーデン・ストックホルム近郊

零下15度くらいまでなら寝袋に入って昼寝をすることも 

「私が働いているのはアウトドアプリスクールです。登園から帰宅まで、子どもたちは春、夏は基本的に給食もお昼寝も野外でとります。給食は森の中で作るし、草原や水辺にも出かけて行って、子どもたちは毎日元気にかけ回っていますよ

10年前にスウェーデンのストックホルムに移住。現在はストックホルム近郊にあるアウトドアプリスクールで、保育士として働き始めて「6年くらい経ちます」という巽朝菜(たつみあさな)さん(以下、朝菜さん)。スウェーデンは、人口1000万人、国土面積は日本の1.2倍、日本と同じく国土の3分の2が森林なのだそう。(スウェーデンの森:約2800万ha, 日本の森:約2500万ha)

『フリールフツリブ』という言葉があります。1900年代からスウェーデンに伝わる『あなたが誰でどこに住んでいても、自然とふれあい、自然の理解を深めることができる』という思想で、この思想が自然を生かしたスウェーデンの教育の基本にあるんです。だから、他の人の土地だとしても、その土地に入ることができたり、森の中で火を焚いて食事を作ったり、テントを張って泊まったり、きのこ狩りをしたりといった『自然享受権』が法律でも保障されていて、常に自然は人々に開かれています。実際、スウェーデンの森には、子どもたちが作った小屋の跡も、あちこちに見受けられますから」

中心都市のストックホルムでも、緑地部分が40%を占め、冬には街の中心地でスケートを楽しむことができたり、少し郊外に行けば3m級のヘラジカや狼、ビーバーがいたりと、それも「『フリールフツリブ』を政府が推進してきたから」だそう。

「スウェーデンは900のプリスクールがあって、そのうち200の園がアウトドアプリスクールです。一般のプリスクールも基本的に自然の中で遊びますが、アウトドアプリスクールはそこを徹底していて、例えば、気温が5℃以上であれば一日野外で過ごしたり、零下15度くらいまでなら寝袋に入って昼寝をしたりします

「森での時間は、子どもたちにとって数えきれない良い効果があるんです」と、朝菜さんは続ける。

「まず雑音がないし、壁がない。多動や発達障害がある子に落ち着きをもたらすと言われています。それと、子どもたちの年齢や発達に合ったチャレンジができる木や、岩場がある。あとは、おもちゃの取り合いみたいな葛藤を生みにくい。松ぼっくりや枝が、刀になったり弓矢になったり、医者の手術の道具やおままごとの道具になったりして、それを相手に表現する必要があるので、コミュニケーション能力も発達するとも言われているんです」

朝菜さんのアウトドアプリスクールでは、日によってはブルーベリーがある時期はブルーベリー摘みをしたり、算数の学びを入れたり、ミッションゲームで『手と同じ長さを拾ってきて』と言ったりするけれど、遊び方は基本的には「子どもたちの自由」なのだそう。

「自分で遊びを見つけなければいけないから、最初は子どもたちも佇んで、『どうしたらいいかわからない』というところからスタートします。森でうまく遊べるようになるまでには少し時間がかかりますが、5歳くらいになると『帰るよ』と言っても『やだー』と言う子がほとんどです。スウェーデンの子どもたちは、能動的な教育場面が多く個人主義が強いので、協調性に欠けることがあります。逆に日本の子どもたちは、受け身的な教育場面が多く集団主義が強いので、協調性はありますが、受動的になりがちだと思います。どちらがいい悪いではなく、バランスが大事ですよね」 

つねに同じ人が中心になるのではなく、対話をしてみんなで考えることが大切

日本とスウェーデンの両国で暮らし、保育士として働いてきた朝菜さんだからこそ、日本との違いはよくわかる。

自然の中で育った子どもたちは、やがて自然に対して意識の高い大人になり、自然を守っていこうという考えで社会や企業、学校作りをしていく。だから、スウェーデンが世界的にも環境先進国と言われる所以は、教育にあるのかもしれませんね

例えばゴミの問題。スウェーデンで埋めたてられる家庭ゴミは1%に満たないと言われており、残り99%は約半分を焼却してその熱を、残りの半分はそのゴミから生産したバイオガスを再びエネルギー源として利用している。さらに、ノルウェーやイギリスから年間80万トンのゴミ(満員状態のジャンボジェット機が約350トンなので、約2285機分)を輸入して、同じくエネルギー源として活用しているそう。朝菜さん自身も、ゴミの分別の細かさや、家庭の生ごみを集めて公共エネルギーに生かす仕組みに、最初は驚いたそう。

「もうひとつ日本と違うと思うのは、国や教育者が、子どもたちの声や意見を実現させようと取り組んでいるところです。そして、選挙の投票率が若者でも8割以上という結果からもわかるように、責任を持って社会を作っていく意識があります。それは、子ども(18歳未満)を大人と同じ権利を持つひとりの人間として認める『子どもの権利条約』が、根底にあるからなんです。「世界中のすべての子どもたちが、子ども時代を自分らしく健康的に安心して豊かに過ごせるために必要な権利」として、1989年に国連総会で採択され、1990年にスウェーデンは批准しました。以来、意思決定の場に子どもたち一人一人が平等に参加し、常に同じ人が中心になるのではなく、対話をしてみんなで考えることが大切にされているんです」

だから、“ガキ大将”はスウェーデンのプリスクールにはいないのだそう。
「『ひとりで決めちゃいけない』ということは、厳しく言います。国によってこれは違うと思うんですが、日本にいた時、私は“ガキ大将”ってリーダーシップがあるということでもあるし、決して悪いことではないと思っていたけど、スウェーデンでは、『それが権力につながる怖さがあって、“平等”ではない』ということを伝えています」

さらに、子どもたちの自立に関しても「もしからしたら日本よりも厳しいかも」と続ける。

「脱いだものを床にそのままにしていたり、借りたものを壊したり、本を破ったり踏んづけたり、モノや人に対するリスペクトが無いときは細かく指摘するし、怒ります。“モラル”はしっかり教えていますね」

最近では日本でも、「自然の中で教育する森のようちえんや、スウェーデンの野外教育を元にした“森のムッレ”などが徐々に広がってきてますよね」と朝菜さん。

「自然の中で遊び、体験を重ねた子どもたちが、これからどんな未来を作っていくのかとても楽しみです」 

取材・文/Questionary編集部

INTERVIEW / 2023.12.18

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巽 朝菜

スウェーデン アウトドアプリスクール保育士

巽 朝菜(たつみ あさな)さん

石川県金沢市生まれ。禅寺で18歳まで過ごす。18歳からアジアやオーストラリアで働きながら滞在し、そこで家もなく学校にも行けないこどもたちに出会ったのが現在の保育士としての原点。2014年にスウェーデンに移住し、2017年から現在のアウトドアプリスクールに就職。2024年からは大学院で野外教育理論を学ぶ。

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