ひと昔前は、学びの場は学校しかなかった。今は、学校“も”あるーー。
子どもたちの多様性に合わせてさまざまな学びの選択肢が増えてきた今、それらを紹介していくシリーズ“シン・学校”。第一回目は、認定NPO法人カタリバが運営するオンライン不登校支援プログラム『room-K(ルーム・ケー)』。メタバース(仮想空間)上の学びの場って、いったいどんな感じ!?
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Questionary まずは、現在の利用者数を教えてください。
白井さやかさん(以下、白井) 約160名です。(2024年1月現在)小学校低学年が20人、高学年が70人、中学生が80人くらいの割合ですね。
現在は、よりroom-Kが必要な状況の方に支援を届けるため、個人の方からのお申込みは受け付けておらず、、room-Kが連携している市町村などの自治体(2024年1月現在 8自治体)に紹介いただいた方に参加してもらう形をとっています。
Questionary そもそも『Room-K』とはどういうシステムなのでしょうか?
白井 まず、ご家庭にひとりずつ「支援計画コーディネーター」がついて、保護者の方と相談しながらroom-Kでの時間をどう使って、学びにつなげていくかという計画を立てます。
その計画に沿って、子どもの支援担当である「メンター」が週1回30分、子どもと「作戦会議」という名の時間の中で、関係性を構築するためのコミュニケーションや、好きなことを見つけるため、もしくは学習習慣に充てたりして、その子に合ったことに取り組んでいます。
オンライン上で開催するプログラムへの接続だけでなく、例えば「教育支線センター」というリアルな場所にも行きたいという子どもだったら、そこへの接続もサポートします。
リアルとオンラインの両方をうまく使い分けていきたい、と計画を立てた場合には、週の何日かは教育支援センターに行って、残りの日はroom-Kを使うなど、それぞれのご家庭で取り組んでいきたい形を伴走支援しています。
Questionary メタバース空間に関して、心配していたことはありますか?
白井 もともとなぜオンライン支援をやろうと思ったかというと、コロナで一斉休校の時に、オンラインプログラムで緊急支援を行なった経験があって、そこには子どもたちがたくさん来ていたんですね。
それを見て、「オンラインでも居場所が作れるんじゃないか」ということで、そのままZoomを使って支援をしていたんです。その後学校が再開すると、その場に残ったのは不登校の子どもたちでした。
「その子たちの居場所づくりをしよう」と思った時に、子どもたちの参加が継続しなかったんです。
なので、もっと子どもたちが来やすいようにゲームをしている感覚で参加出来る、、メタバースにたどり着いた、という流れです。
Questionary なるほど、そういう流れなんですね。
白井 メタバース上ではいくつか部屋があり、「あの場所に行こう」と思ったら、自分で操作しないとそこには行けません。部屋に入る時も「入る」というボタンを押さなければ入れない。
つまり、学校に行った時の「教室に入ろうかな、やめようかな」という心の動きが、アバターの動きを見ているとメタバース空間でもよくわかるんです。そんなZoomでは見えなかった部分が見えるようになったことは、発見でしたね。
ちなみにアバターは、どこかの部屋に入ったり、アバター同士が近づいたりすると、Zoomと同じように画面が立ち上がります。その時は画面をオンにしてもオフにしても、マイクオンにしてもチャットだけでも、子どもたちが自由に選べます。
Questionary プログラムはどのように作っていくのでしょうか?
白井 プログラムは、子供の状態や興味関心に合わせて参加に繋げられるように大きく4つで構成しています。
①横のつながりをもつことの楽しさを感じ、意欲を育むクラブ活動
➁算数・数学等、5教科を楽しく学ぶ、教科WS(ワークショップ)
③自分のペースで行う、学習支援プログラム
④いつでも安心できるみんなの居場所、居場所型プログラム
新しいプログラムは利用者の声、現場スタッフの声も反映しながら検証を重ねて、
半年ごとに(4月−9月;春夏プログラム 10月ー3月:秋冬プログラム)変えています。
プログラムの時間割は月曜日から金曜日まできちんと決まっています。子どもによっては、可能な範囲で一定数のプログラムを申し込んで、「毎週この時間は行く」と約束しながら、少し負荷をかけて取り組んでいます。
つまり「この時間はきちんといく」と、「行けない時には無理をしない」を、バランスよく組み合わせています。
Questionary ご家庭の方からよく出る質問はありますか?
白井 「リアルの場での不登校支援を利用してがんばってきたけど、どうにもならなくてたどり着いた」というご家庭の方々も多いので、
「(プログラムに)参加できない時も多いかもしれないけど、それでも申し込んでいいですか?」
「マイクオフ、画面オフの参加でも大丈夫ですか?」
「気分が乗らない時は休んでも大丈夫ですか?」
といった質問を受けることが多いです。でもそれって、そういう経験をされてきたからだと思うんですよね。
だからroom-Kとしては、ご家庭の状況をよく聞き、柔軟に対応することを心がけています。
Questionary 自治体の方々からはいかがですか?
白井 「オンラインの場所につなげてしまったら、学校に戻れなくなるんじゃないか、そこに止まってしまうんじゃないか」といった不安の声はよくいただきます。
でも、room-Kを2年やってみて思うのは、心のエネルギーが下がっている子どもが家から一歩を踏み出せないとき、そこから接続できる場所はオンラインしかなくて、でも、そこで人との関係に触れて、ある程度自分に自信がついたり安心感が醸成されたりして、「外に行ってみたい」とか、「お友達に会いたい」とか、「学校には行けないけど教育支援センターには行ってみようかな」となることが多いんです。
だから、「オンラインだけでいい」と思う子どものほうが少ないんじゃないか、という肌感があります。
Questionary 子どもたちが変わっていったエピソードをぜひ教えてください。
白井 そうですね、最近私が聞いたエピソードだと、
「学校に行くと声が出せなかった子どもたちが、「作戦会議」や「教育支援センター」につながって声が出せるようになった」、
「食事も家族ととれなかったお子さんが、作戦会議はしています」、
「2021年に引きこもり傾向のお子さんが、2023年の秋、2年をかけて作戦会議ができるようになった」などがありました。
また、room-Kに「”推し”を語る会」というのを作って、あるオンラインゲームが好きな子たちがチャットグループを作って楽しんでいるとも聞きました。
Questionary 素晴らしいストーリーばかりですね。最後に今後のビジョンを教えてください。
白井 不登校には子どもの数だけ理由があります。今は少なからずさまざまな学習ツールがあったり、学校に行けない子どもたちにも個々の状況に応じて必要な支援をすることが定められた教育機会確保法があったりしますが、それでもまだ今の子どもたちの親の世代は「学校に行けなかったらどこに行けばいいんだろう」と迷うことが多いと思います。
room-Kとしては、オンライン支援が必要な子どもたちにとっての、より良い支援・包括的な支援の在り方とは何なのか、今後も探り続け、挑戦していきたいと思います。