COLUMN

COLUMN

教科書を使わないユニークな教育として名高い和光小学校は、「みんなでつくる学校」だった!

 

全国のユニークな小学校の校長先生をインタビューするシリーズ『校長採集』。第二回目は、東京都世田谷区にある私立和光小学校の帯刀彩子校長先生にインタビュー!


数々の著名人を輩出し、教科書を使わないユニークな教育として名高い和光小学校で、子どもたちがのびのびと学び続けているその秘密に迫ります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

Questionary 2023年の4月に校長先生に着任されたとうかがいました。帯刀校長になられて、何か学校の教育に変化はありましたか?

 

(帯刀彩子校長、以下帯刀) 校長が私に変わったことで、学校の教育方針が変わることはまずありません。和光小学校は、教職員も子どもも保護者もふくめて、みんなでつくっていますから。

 

そもそも「民主的な社会の担い手を育てる」「平和な社会の担い手を育てる」「人間の全体的な発達を目指す」といった昔ながらの理念をずっと大事にしていて、そこからブレることはありません。でもそのために、教職員同士で長い時間の会議を何度も重ねています。

 

例えば、基本的に教科書を使わない授業作りをしていますが、それは生徒たちがなんでも自由にやるというわけではありません。自主編成した大枠のカリキュラムがありつつ、その中で子どもたちと一緒にその中身を作りながら、同時に教職員が常にその内容が今の子どもたちにとって有意義かどうかを研究しています。

 

2年生が焼いたパンを持って先生たちに採点してもらいに来ている様子

 

Questionary 「研究」とは具体的にどんなことをされているんですか?

 

帯刀 例えば、あるクラスの授業を教員みんなで見に行って、どういうカリキュラムが子どもたちにとって本当にいいのか、どういう教材を使うと役に立つのか、どういうことが学びの楽しさにつながるのか、とうことを具体的に検討します。その話し合いには、すごく時間をかけていますね。

 

そういった研究の積み重ねがあるから、先生からの一方通行の授業ではなくて、子どもたちが本当に自由に発言できる場になっているんだと思います。

 

Questionary なるほど。子どもたちはみんな入学してすぐに発言できるようになるのでしょうか?

 

帯刀 いろいろな性格の子がいますし、活発な子ばかりと思われがちですがもちろん静かな子もいます。ただ、和光には「自分を表現する場」がいろいろなところに用意されていて、例えば人前で話すことが恥ずかしくてできなかった子が、書くことで少しずつ自分を表現できるようになったりします。すごく恥ずかしがりやの子が劇や民舞で輝いたりします。

 

だから私たちも、子どもたちには授業でどんどん自由に発言してほしいけれど、それだけを良しとは思ってはいません。

 

Questionary ほかにどんなことを大事にされていますか?

 

帯刀 1年生の終わり頃から学校やクラス、そして学びを自分たち自身で作っていく「自治」をすごく大事にしています。

 

例えば、班の班長は立候補制で選挙で決めます。その前に、みんなで順番に班長を体験するプロセスを踏むんですが、率先して班長をやろうとする子もいれば、まったくやりたがらない子もいます。

 

学校側としては、(やりたがらないからといって)もちろん班長をやることを強制はしません。一回も班長をやったことなかった子が自分のタイミングを見計らって、いろいろと葛藤しながら立候補を決めていきます。その「自分で決める」ということが大切だと思っています。

 

反対に、当然ながら選挙で落ちてしまう子もいます。それもまた、「自分が⚪︎⚪︎だから落ちたのかな」「授業中ちょっとおしゃべりしちゃってるからかな」など、自分を振り返る良い体験になっているんです。

 

Questionary 和光ならではの自由で楽しい雰囲気を作るために、何か特別心がけてらっしゃることはありますか?

 

帯刀 楽しい雰囲気を作るというよりは、大人も子どもも保護者のみなさんも、「それぞれがそれぞれらしく、存在している」ということだと思うんです。だから安心して自分を出していけるし、受け止めてもらえると思える。そうでないと、自分の本当の力って出せないですから。

 

それを大前提として、和光にはやはり「学びの面白さ」があります。全然知らないどこかの話ではなくて、自分の生活と結びついていると俄然面白くなる。そこをすごく意識して、授業を作っています。

 

いちょうまつりでの6年生のエイサーの一場面

 

 

 

いちょう祭りでみんなと一緒に踊る帯刀校長

 

 

Questionary ということは、意識的に生徒たちから、生活の延長線上の疑問をヒアリングされてらっしゃるのでしょうか?

 

帯刀 そうですね。例えば、低学年の子は「あのねノート」を書いています。「先生あのね」とか「みんなあのね」で書き出すんですが、先生や友達に対してなにか伝えたいときはそれを使ったりします。

 

あとは「発表」もすごく大事にしています。とくに低学年は、例えば登下校中に見つけたものや、お家で作ったものについて、みんなの前で発表する時間を設けています。

 

Questionary 生徒のことを知るための場も、細やかに散りばめられているんですね。ちなみにタブレットは使いますか?

 

帯刀 基本的には使わないです。今の時代、子どもたちは家庭で触れているだろうし、例えば、グループ学習でテーマを決めて、調べものがあるときに使ったりすることもあるし、否定はしません。でも、教員たちとは、限られた時間の中で私たちが大事にしたい学びは、タブレットを通してじゃないよね、と話しています。そういう意味では、一人に1台端末を配るような使い方はしていません。

 

Questionary 帯刀校長は、和光小学校の校長になられる前は和光幼稚園で教員をやられていたんですよね。

 

帯刀 はい、23年ほど幼稚園の教員を務めて、その後現職に着いたので、小学校の経験はありません。和光は今、幼稚園と小学校で1人の長を持つ組織になっているんです。

 

Questionary 幼稚園と小学校で大事にしていることは、やはり共通しているのでしょうか?

 

帯刀 そうですね。まず、グラウンドを真ん中にして2階建ての建物内で小学校と幼稚園がつながっていて、1階も2階もぐるっと回れるような作りだから簡単に行き来ができるし、グラウンドや「子どもの森」で日常的に交流しています。

 

幼稚園と小学校の教員同士も一緒に研究する機会が多々あり、子どもたちの年齢によってやることは違っても、教育で大切にしたいことは変わらないね、という話をよくしています。

 

Questionary 校長先生になると、子どもたちとの接点はやはり減るんですか?

 

帯刀 それは減りますね。ただ、校長室に子どもたちがよくおしゃべりしに来たり、ちょっとホッとしに来たりしますよ。そこのソファーでくつろいだりしながら(笑)。

 

そんなふうに、和光には大人に触れる場もいろいろあるんです。例えば、音楽、技術、美術といった専科の先生たちがいるんですが、それぞれ教室を開放しているので、子どもたちは状況を見ながら、担任の先生以外にもそういう専科の先生に「もっとものつくりしたい」「楽器を練習したい」と相談をしに行ったりしています。

 

そうそう、和光のもうひとつの特徴として、幼稚園も小学校も、保護者会を月に一回やっているんです。出席率も高いですよ。だから、自分の子どものクラスメイトたちがどういう子どもで、今クラスがどんな状況で、どんな問題が起きているかを、保護者の方々がみんな知っています。

 

これってすごく良いことで、知らないと不安につながることも、クラスの子どもたちのキャラクターや状況がわかっていると、何か起きた時にみんなで見守れる安心感があるんです。

 

Questionary まさに最初におっしゃった「みんなで作る学校」ですね。

 

帯刀 はい。実は、私の娘は和光小学校に通っています。私はこの学校を保護者の立場からも見ていました。子どもを通わせている職員は他にもいるのですが、この学校の教育を自分の子どもにも受けさせたいなと思って入れたんです。

 

 

【プロフィール】
帯刀彩子 校長先生
Ayako Tatewaki
和光幼稚園で23年教員として勤めた後、2023年4月から和光小学校の校長に就任。

COLUMN / 2024.02.21