COLUMN

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司法、立法、行政。社会で行われていることを、スクールの中で実行する。ボストン発・自分とじっくり向き合える場

 

 

ひと昔前は、学びの場は1つの教育、1つの学校しかなかった。今は、色々な教育“も”、学校“も”ある時代ーー。

 

子どもたちの多様性に合わせてさまざまな学びの選択肢が増えてきた今、それらを紹介していくシリーズ“シン・学校”。第3回目は、東京サドベリー・スクールです。

 

学びの場をリサーチしていて出会った「サドベリースクール」という言葉。世界中にあるこのスタイルは、どのような教育を提供しているのでしょうか? 東京サドベリースクール代表の杉山まさるさんに聞きました。

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Questionary サドベリースクールはそもそもどこで始まったのですか?


杉山まさるさん(以下、杉山)もともとはアメリカのボストンで創設された私立校、サドベリー・バレー・スクールが最初で、その後その理念に賛同した人たちが世界のさまざまな国でサドベリースクールをスタートしています。

 

日本にも今10校(2024年2月現在)ほどあって、私たち「東京サドベリースクール」は、2023年度で15周年になります。

 

Questionary どんな理念を掲げているのでしょうか?


杉山 サドベリースクールはあえて明確なカリキュラムをつくっていません。東京サドベリースクールでは、きちんとした存在意義では「自立する人と社会が育つ学校」、シンプルにいえば「自分のことは自分でする、みんなのことはみんなでする」と言う理念を掲げています。最近はそれがだんだん広まってきて、嬉しく思っています。

 

Questionary 「自分のことは自分でする」というのは、例えば、生徒が自発的に何かをやるまで待つ、ということでしょうか?

 

杉山 究極的には待つこともしないです。「待つ」って、生徒が何かをすることを期待してるんですね。そうではなくて、生徒本人が自分がどうしていきたいかということを自分で気づいて、それを責任を持って行動に移していくことが大事だと思っています。でもそれは、私たち大人が社会でやってることと一緒なんですよね。

 

今の子どもたちは、あらゆることを与えられ続けているので、「自分がどうしたいのか」「何をすべきなのか」を、考えなくて済んでしまっている部分があります。

 

と言うと、「子どもは自分から考えたり行動したりできないじゃないですか」と、大人からよく質問をいただくんですが、むしろ子ども時代にやらないからそれができない大人に育ってしまう、というふうに私たちは考えているんです。

 

だから、自分で考えて行動する経験をたくさん積めるように、私たちは「環境を整える」ことをとても大切にしています。それはカリキュラムを作るといった意味ではなくて、できるだけ生徒自身が、自分が興味を持ったことを自分で気づいて、それを行動に移していきやすい環境、という意味です。

 

Questionary みんなのことはみんなでする、というのは、具体的に何をするのでしょうか?

 

杉山 例えば、学校という自分たちの社会の運営です。生徒全員がそれぞれ1票ずつ持っていて、いろいろな件を話し合って決めています。これも、18歳になったら選挙権を持つのと同じ考え方です。

 

一般的な学校での教育は学問教育と人格形成が二大柱になっていますが、私たちサドベリースクールは、人格形成とともに、社会の一員として価値創造や課題解決に取り組む「市民教育」をとても大切にしています。

 

世の中には「家庭」「職場」「市町村」「国」「世界」など、いろいろなサイズの社会がありますが、その一員として生きていく力をつけやすい教育システムにしています。

 

例えば、国でいうと司法・立法・行政ってありますよね。スクールでは、法律にあたるルールを作ったり、ルールを違反したら、みんなで話し合って解決したりする裁判があったり、行政でいうと学校の方針やお金をどう使うかを、みんなで話し合って決めています。

 

あとは、学校の先生にあたる「スタッフ」と呼ばれる大人たちを、来年雇うかどうか生徒たちも1票を持って決めることができます。なので、私は今ここでお話をさせていただいてますが、来年はいないかもしれません(笑)。

 

でも、これは大人が選挙で自分たちの社会の為に働いてくれる人に投票するのと一緒ですよね。

 

Questionary  なるほど。本当に社会で行われていることを、スクールの中で実行されているということなんですね。

 

杉山 そうです。そんな中でもし、みんながやっていることを批判だけしている生徒がいたとしたら、「あなたもここの一員なんだから、足りないと思うところがあったら自分から提案し行動して良い方向に持っていく、そういうスタンスが大事なんだよ」と伝えるのも、私たちスタッフの仕事だと思っています。

 

Questionary 生徒さんは今何人いらっしゃるんですか?

 

杉山 現在は5名、一般的にいうと小中高校生です。コロナ前は20名近くいました。日本のサドベリースクールは規模的にはマイクロスクールといって多くて30名ほどの小規模なスクールが多いです。校舎は一軒家で、リビングと部屋がいくつかあります。

 

Questionary どんな生徒さんが来ているんですか?

 

杉山 一概には言えませんが、幼稚園・保育園、一般的な学校やインターナショナルスクールなどを卒業して6歳12歳15歳の区切りで入学する子。

 

それと以前通っていた学校が合わなくて、私たちのスクールにたどり着いた子と半々くらいです。でも私たちはとくに、不登校の子のためとは言っていません。

 

そもそも「不登校」という単語自体がいらないと思っているんです。なぜ何かの教育に合わないだけで、子どもにそういうレッテルを貼るのかと。

 

ある会社が合わないだけで「不出社」とは言わないですよね。私たちとしては、不登校だったかどうかではなく、本人が東京サドベリースクールで自分をどう育てたいか、というところを見ています。

 

だから、対外的にはフリースクールや一般の学校教育の代替という意味のオルタナティスクールではないとお伝えしています。

 

Questionary  子どもたちはどんな一日を過ごしているのですか?

 

杉山 入学した時にやりたいことがある子もいますし、ない子もいます。例えば、私たち大人の日曜日の過ごし方がみんなバラバラなように、その日何をするかというのも生徒によって違います。

 

個人のこととしては、料理が好きになった子は料理をしていますし、友だちと遊ぶ子もいますし、ゲームをやっている子もいれば、ハンモックでのんびりしたり、何かを制作したり、数学をしたり、何をしていいかわからなくてウロウロしたりしている子もいます。

 

みんなのことでは、ある曜日のある時間帯はみんなのことをみんなでするとみんなで決めたので、経営ミーティングなどをやっています。

 

スタッフは、その場の状況、それぞれの子のこれまでの経緯、その他いろいろなものを加味して、子どもたちと会話をすることもありますし、あえてまったく会話に入らないこともあるし、ケースバイケースです。

 

Questionary  卒業した子たちは今どんなことをしているんですか?

 

杉山 例えば、入学してすぐ料理やお菓子作りが好きだということに気づいて、3年間ずっと料理と菓子を作っていた子がいました。その子は、卒業した後に鎌倉のケーキ屋さんで働いて、その後地元に帰って自分の店をオープンしています。

 

あとは、東京サドベリースクールに通いたいということで、愛知県から家族で引越しされてきた家庭の男の子は、6年ほど通って卒業した後、スポーツクライミングが好きだったので、今はそのインストラクターをやっています。

 

他にも、6歳から9歳までアメリカのサドベリースクール、10歳から18歳までは本校に通って、日本の一般的な学校は一度も行ったことがない女の子もいました。彼女は今、歌手としてがんばって活動しています。

 

こんな感じで、自分の興味のある道を自分で選んで進む子も多いです。

 

Questionary 自分がなにがしたいか、したくないか、自分と向き合ってじっくりと考えられる場なんですね。

 

杉山 そうですね。一般の学校だと、「進路どうする?」「今何したい?」というふうに、基本的に大人がどんどん声をかける傾向があると思いますが、それって自分発ではないですよね。

 

それと関連して、先にもお伝えしたとおり、私たちは先生ではなくスタッフと呼ばれています。その理由は、先生とはそもそも教える人で、何かやるべきことが決まっていてそれを伝える仕事です。

 

そういう意味では、私達は先生ではありません。時に「教えて」と言われて教える時は先生になりますが。

 

「自分発の力」をぜひ子ども時代につけてほしい。そして自分らしさをみつけたり興味の追求、他者との関わりを通して子ども時代を楽しんでほしい。私たちはそう思いながら、日々子どもたちと接しています。

 

COLUMN / 2024.02.21