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『ことばキャンプ』が教えてくれる、自分で自分の人生を決める力

 

 

 

NPO法人JAMネットワーク代表として、子どもたちが自分の気持ちを言葉にできるようになる、そして相手の気持ちを慮るようになれる「自尊他尊」をモットーにした『ことばキャンプ』の活動を続ける村上 好(むらかみ よし)さん。ご自身の3人のお子さんも経験した不登校、そのときに出会った「ことばキャンプ」の力、そしてそこから学んだことについて、幅広くお話を伺いました。

 

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実は、私の3人の子どもたちは、みんな不登校の経験があるんです。

 

 

Case 長男の場合:「ちゃんと学校行きなさい!」

 

まず、長男が高校2年生で不登校になりました。そもそも長男のときは、今振り返ると私が教育熱心すぎて、あれやりなさい、これやりなさい」「良い大学に行ったほうがいい」という無意識の誘導をしてしまっていたな、と。

 

今は25歳を超えた長男と講演会を一緒にやることがあって、そこで当時とっくみあいをしていた様子をお互い寸劇で演じるんです。「学校行きなさい!」という私と、ひたすら「落ち着け!」と言う大人な息子(笑)。

 

当時、私も夫もはじめての経験だから、接し方も説得の仕方もわからなくて、とにかく彼の気持ちを抑え込んで学校に行かせようとしていました。それがまったくの逆効果で、やがて引きこもり状態に。

 

そのタイミングでたまたま『ことばキャンプ』と出会って、次男、一番下の娘も一緒にそのメソッドを体験したところ、長男は徐々に、次男と娘はみるみるうちに変わっていったんですね。これはすごい!と思いました。

 

さらに、長男は19歳の頃『耕せ、にっぽん』という若者支援団体とたまたま出会って、半年くらい共同生活をしながら就労経験を積み、別人になって帰ってきましたね。

 

 

Case 次男の場合:「学校行きたくない? だよね」

 

次男が不登校になったときは、長男の時の経験もあって私自身の考え方も大きく変わっていました。次男とは「今の教育ってどうなんだろうね?」といった話を一緒に対話できる関係だったので、その結果、決してネガティブな意味ではなく「俺、学校行かないわ」となり、私も「だよね」と。

 

そうして学校に行かなくなった瞬間に、学校行っていたらできないこと、例えば平日の美術館に入り浸るとか、歴史が好きだったので史跡を訪ね歩くとか、ふたりで好きなことをひたすら追求することにしたんです。江戸東京博物館にはいつも通っていたので、ガイドのおじさんと次男が仲良くなって、いろいろ教えてもらったりもしました。

 

あと、時間があったから「これさ、分解してみない?」と、オーブントースターやビデオカメラを朝から晩までかけて分解したりしていました(笑)。オーブントースターは、シンプルで部品が10個くらい。一方、ビデオカメラは500以上あって。パナソニックのビデオカメラだけど東芝のマイクロチップが入っていたりとか、手書きで番号が書いてあったりとか、「なるほど、だから高いのか!」って。

 

そんなある日、甲子園の試合を見ていたらとある農業高校が出場していて、その中の選手が畜産科で、甲子園に出ている間は別の子に動物の面倒を見てもらっている、と紹介されていたんです。そのとき、動物好きでもあった次男は「そんな学校があるんだ!」と知って。それから、東京にもそういう学校があるのを見つけて、そこに入学して3年間動物の飼育技術を学び、今は動物の看護大学に進んでいます。

 

これは、学校に行っていない時期に自分の好きなことを徹底的に追求した結果だと思っています。よく「子どもにそこまでつきあうって大変でしたね」と言われるんですけど、私からしたら子どものせいにして遊べていたし、こんな面白いことを提供してくれる息子、最高!って感じでした。どっちが子どもなんだか、わからないですよね(笑)。

 

 

Case 娘の場合「よし、明日から旅に行こう!」

 

一番下の娘のときは、中学2年のときでした。

娘:「あのさ、学校が一一」

私:「わかった。学校、勉強のことを一切忘れて、まずは明日から旅に出よう、行きたいところある?」

娘:「『名探偵コナン』の京都の聖地巡礼に行きたい」

私:「じゃあ、自分で行きたいところピックアップして」

こうして、娘と私は旅に出ました。

 

夫も、いつもすごく温かく見守ってくれてありがたいです。言っても無駄だと思っているだけかもしれないけど(笑)。

 

その旅の途中、いろいろと素敵な人に出会ったんですね。そうして2週間ぐらい経つと、娘も「そろそろ学校戻ろうかな」となって。娘は中学校では成績が一番下のクラスで、戻ってからも学校に行かない日がありましたが、高校でなぜか急に火がついてすごく勉強するようになって、最終的には成績優秀賞をもらいました。

 

さらに、中高一貫の学校だったのですが、高校では中学生の不登校の子たちの面倒を見るようになって。気持ちがわかるからでしょうね、先生たちも娘に、「何年何組の子が不登校になりがちなんだけど」と相談をするようになって。

 

その後、娘は「なんで不登校になるんだろう」というところから、「なんで人間は犯罪を犯すようになってしまうんだろう」という疑問に行き着いて、今は大学で犯罪心理学を学んでいます。

 

 

結論:不登校を解決するたったひとつの方法

 

 

 

講演で「不登校の原因って結局なんですか?」と聞かれることが多くて、私はいつも「経験と体験があまりにも少なすぎるからだと思います」とお答えしています。

 

習い事ひとつとっても、合う、合わないを自分で体験して、合わなかったら次に行こう、という経験値をどんどん増やしていったほうが、私はいいと思っています。

 

そして、不登校を解決するたったひとつの方法は、大人が楽しむこと。子どもは大人の一挙手一投足を全部見ていますから、それにつきますね。

 

 

自分の人生は自分で決めていく

 

3人の子どもたちにとって、『ことばキャンプ』の影響は大きかったと思います。

 

「なんでこうなるのか?」「これはおかしいんじゃないか?」という疑問に対して、

自分の気持ちを言語化できるようになりますから。

 

具体的には、『どっちにする?』という二者択一のゲームがあります。どちらかでいうと、でもいいので、答えを決めてもらいます。

 

例えば、

「オレンジとりんごどっちがいい?」

「世界一長いジェットコースターか、速いジェットコースターか、どっちがいい?」

という質問があったとします。

 

まず、聞かれた時に、自分の心の中をのぞきますよね。「自分はこっちが好きだな」と決めて、「それはなんで?」と聞かれたら、また心をのぞいて、自分なりの理由を表現しますよね。つまり、このゲームは決めて、伝える、自己決定の練習なんです。

 

日本の教育では、この練習がまだ圧倒的に足りていません。人生は決断の連続です。だから、この練習を続けていくことによって、自己決定力が身について、自分の未来を自分で決めていけるようになります。

 

ただ、『ことばキャンプ』は、自分の主義・主張が言えるようになることだけを目的にはしていません。

 

世の中にはたくさんのルールがあって、なかには「なんで?」と思う納得できないものもあります。そういった、自分の主張と相手やまわりの物事との折り合いをつけていける、「自尊他尊」のバランスを整えていくプログラムなんです。

 

『どっちにする?』ゲームをやると、人の意見は自分と違って面白いものなんだってわかる。子どもだけでなく、大学生40人くらいに向けてやることもあるし、女子高生100人規模でやることもあります。

 

授業の最初に「コニュニケーションって得意な子いる?」と聞くと数人なんですが、2時間の授業が終わった後、「コミュニケーションが好きになった人?」っていうと、ワーって手を挙げるようになります。

 

今、この瞬間にすぐできて、変われるメソッドなんですね。

 

だから、保育園や学校の職員の方々にもお伝えしたいし、「ファミリースマイルプログラム」という企業に向けた、社員の方々の育児支援プログラムもスタートしています。

 

ぜひこの「ことばキャンプ」のメソッドが、たくさんの人たちのお役に立てるといいなと思っています。

 

Profile

 

村上 好さん

Yoshi Murakami

 

オカンの駆け込み寺®︎代表、JAMネットワーク代表、「ことばキャンプ」認定講師、中医学養生士、食養生コーディネーター、聖学院中学校高等学校教育相談支援員、2016年より『ことばキャンプ講師』。全国の児童養護施設へのことばキャンププログラムを提供し、2024年代表に就任。自身の3人の子どもはそれぞれ不登校を経験、その時に出会ったことばキャンプで、人はいつからでも変われるということを実感。我が子の不登校経験を活かし、社会的養護が必要な児童の支援や、講演会などを広く開催。自分も相手も大事にできる自尊他尊®のコミュニケーションが当たり前の世の中になるような活動をしている。

 

AERAdot.にて「不登校の『出口』戦略」連載中。

 

COLUMN / 2024.08.15