INTERVIEW

INTERVIEW

Q from all over the world

「世界中から産地直送Q!」

プロフィール

鈴木真由美

保育士、ブラジル・カノア保育園園長

鈴木真由美(スズキマユミ)さん

1977年神奈川県横浜市生まれ。保育士。ブラジル・カノア保育園園長。2000年にブラジル北東部のエステーヴァン村(人口約300人)で、現地の人々と連携しながら保育園の運営を始める。2006年にカノアでの支援を目的にした「光の子どもたちの会」を設立(2015年にNPO法人化)、代表となる。著書に『ブラジル 天使が舞い降りる村のカノア保育園 21歳女性保育士、ブラジルの貧しい漁村にひとり飛び込み保育園を作る!』。現地の男性と結婚し、現在二人の娘さんは大学生と高校生。

vol.1

ブラジル・エステーヴァン村

人口300人のブラジルの漁村で
2000年に保育園を開園

横浜で保育士を目指し実習を重ねていた鈴木真由美さんが、縁あってブラジルに向かったのが1997年。実習中に疲れ切った子どもたちをたびたび目にし、他の国の子どもたちの状況を知りたいと考えたのがきっかけだったそう。そうしてサンパウロのスラム街にある保育園を経て行き着いたのが、人口約300人のエステーヴァン村。男性の大半が漁師だったため、母親たちからの「私たちが働くために子どもを見てくれる場所が必要」という切実な声に答えるべく、2000年にみずから“カノア保育園”を開園し、園長となった。
「現在に至るまで地元の人々と一緒にカノア保育園を運営しつつ、同時に日本の認可保育園でも保育士として働いてきたので、いろいろと気づきがあって面白いです。子どもに関しては、国が変わってもそんなに変わらないと感じます。教育に関しては、日本は安全面でとても厳しいですね。たとえば、子どもが木から飛びたくても、ケガをしたら大変だからということで止める。でもブラジルは、飛びたいんだったら一回飛んでみて、もしケガをしたらそのとき考えよう、という感じ。つまり、自分が興味を持ったことに全力で取り組めるかどうか、その環境の違いはあると思います
日本とブラジルを行き来している鈴木さんだからこそ感じる、さまざまな文化の違い。ブラジルで生まれたふたりの娘さんたちも、行き来する中でユニークな質問をぶつけてきたそう。
「エステーヴァン村はほぼ赤道直下なので、太陽と月が昇る位置が一緒なんです。だから、なんで『日本は月と太陽が昇る場所が違うんだろう?』って。 あとは、日本に行ったあとブラジルに戻ると、『なんでバスが時間通り来ないの?』とか(笑)」
ほかにも違いはまだまだある。エステーヴァン村の夜は、プラネタリウム並の星空が広がるそう。
「『なんでこんなにいろんな色の星があるんだろう? 大きさが違うんだろう?』園の子どもたちからはそんな質問をよく受けます。それと、満月の灯りがそれだけで暮らせるくらい明るいので、『本当は太陽よりお月さまの方が明るいんじゃない?』なんて言う子もいました」
エステーヴァン村から徒歩10分ほどのところには、観光地が広がっている。コロナ禍を経て、とくにカーニバルのシーズンは、おもにヨーロッパからの観光客が多く訪れた。
「イタリア人、フランス人、オランダ人が多いんですが、子どもたちから言わせると、彼らが話している言葉は、たまにポルトガルと似た響きの単語があるから少しだけわかるそうなんです。ただ、私がたまに日本語を話しているのを見ると一言もわからないから、『真由美はどこから来たの?』と、私を宇宙人みたいなものだと思っている子がいます(笑)」
 

自分が家族だと思えばその人は家族。
3つの家族からスタートした村

実は以前から観光地ではドラッグや売春の問題が根強く、鈴木さんは地元の人々と連携しながら、村の子どもたちを守ろうとサポートし続けている。

「でも、コロナ禍を経た今、またひどくなっています」

他にも、家庭環境に問題がある場合も少なくない。

「両親がいつもケンカしていたり、お兄ちゃんが酔っ払って帰ってきて暴れていたり。だからカノア保育園では、朝登園してきたとき子どもたちが自由に絵を描けるように、テーブルの上に紙とクレヨンを用意しています。そうすると、いろいろな家庭環境がある中で、言葉でうまく表現できない子どもたちが紙の上で気持ちを発散させたり、キレイな絵を自分で描いて自分を落ち着かせたりする。『今日のこの子の絵はいつもと違うなあ』と思ったら、すぐ『何かあった?』とコミュニケーションをとっています」

そもそも“家族の概念”が日本とは違うんです、と鈴木さんは続ける。

「子どもがいて、両親がそろっているひとつの家族より、お母さんはひとりだけどお父さんはいろいろ変わって4人いる、といったパターンが多い。そういう場合は、子どもはたいていおじいちゃんおばあちゃんの家に住んでいて、お父さんと言える人はおじいちゃんだったりします。例えば小学校に入って、『家族の人から仕事について話を聞いてきてください』という宿題が出されると、村の子どもたちは血縁関係の無い、ただ自分を可愛がってくれる大人に話を聞いてきたりする。つまり、自分が家族だと思えばその人は家族、ということなんです。最初エステーヴァン村は3つの家族からスタートしたので、元をたどればみんな親戚。それもあって、根底には“みんな家族”という意識があるんだと思います」

ちなみに、村の人口は鈴木さんが開園した2000年から現在に至るまで、ほぼ変わらず約300人なのだそう。村の長老に聞いてみたところ、「昔はひとりの女性が子どもを10人くらい産むのが普通だった。自給自足だったから、労働力としても子どもはたくさん必要だった。今は、ひとりの女性が多く産んでも4、5人。それでも人口が変わらないのは、村の外から来る女性と村の男性が結婚することが多いから。あなたみたいにね」と言われたそう。

「スマホも外部から入ってきて、村の人々は以前よりいろいろなことを知ることができるようになりました。『今までとは違うことを子どもたちに教えてあげてほしい』と、保育園に求める親が増えてきています。そのたびに私は、『今の先進国は、かつて未就学児のときから知的教育を高めようと”早期教育”、いわゆるお勉強に力を入れていたけど、今は”遊びの中で学ぶ”方向に変わってきている。私たちカノア保育園は、すでに自然の中でダイナミックにその教育ができているのだから、わざわざその素晴らしい伝統を壊すのではなく、大切にしていこう』と、日々話しているところです」

 

取材・文/Questionary編集部

INTERVIEW / 2023.10.27

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鈴木真由美

保育士、ブラジル・カノア保育園園長

鈴木真由美(スズキマユミ)さん

1977年神奈川県横浜市生まれ。保育士。ブラジル・カノア保育園園長。2000年にブラジル北東部のエステーヴァン村(人口約300人)で、現地の人々と連携しながら保育園の運営を始める。2006年にカノアでの支援を目的にした「光の子どもたちの会」を設立(2015年にNPO法人化)、代表となる。著書に『ブラジル 天使が舞い降りる村のカノア保育園 21歳女性保育士、ブラジルの貧しい漁村にひとり飛び込み保育園を作る!』。現地の男性と結婚し、現在二人の娘さんは大学生と高校生。

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